清水寺を訪れた際、参拝の合間にどこか良い休憩処はないかと探していませんか。数あるおすすめの茶屋の中でも、ひときわ興味を引く名前の「舌切茶屋」。その少し怖い名前の由来や、幕末の志士・西郷隆盛との関係について気になっている方も多いかもしれません。清水寺の境内には茶屋が何軒あるのか、すぐ近くにある忠僕茶屋との違いは何か、そして舌切茶屋で味わうべき人気のメニュー、例えば名物のわらび餅や温かい甘酒についても知りたいところです。この記事では、あなたのそんな疑問にすべてお答えします。
- 清水寺の境内における舌切茶屋の正確な場所
- 「舌切」という少し怖い名前の歴史的な由来
- わらび餅や甘酒など、訪れたら味わうべき名物メニュー
- 近くにある忠僕茶屋との違いと、周辺の休憩処の情報
清水寺にある舌切茶屋への行き方と周辺情報
清水寺の境内における詳しい場所
舌切茶屋は、年間を通して多くの観光客で賑わう京都の象徴、音羽山清水寺の境内にその歴史を刻んでいます。清水寺への主な参道である清水坂を上りきり、鮮やかな朱色が印象的な仁王門を通過し、さらにその先の西門や三重塔を左手に見ながら進むと、やがて本堂(清水の舞台)へと至る最後の石段が見えてきます。舌切茶屋は、まさにその石段を上る直前の左手に位置しており、清水寺のクライマックスとも言える舞台を目前にした、絶好の場所にあります。
お店の目印は、縁台に敷かれた風情ある朱色の毛氈(もうせん)です。この伝統的な茶屋の佇まいは、周囲の歴史的な景観と見事に調和し、訪れる人々に安らぎを与えてくれます。清水の舞台や音羽の滝を目指す多くの参拝客が、この場所で一度足を止め、散策で火照った体を休めていきます。
特に、清水寺の拝観ルートは坂道や階段が多いため、体力を消耗しがちです。その点、舌切茶屋は本堂拝観の直前という、一息つくのに最も適した立地にあると言えるでしょう。清水寺の広大な境内では目的地を見失いがちですが、「本堂へ向かう最後の階段の左側、赤い布が敷かれた縁台の茶屋」と覚えておけば、初めて訪れる方でも迷うことなくたどり着くことができるはずです。
参考資料:音羽山清水寺『境内案内』
近くにある忠僕茶屋との違いとは
舌切茶屋のすぐ向かい、本堂へ続く石段を挟んだ右手には「忠僕茶屋(ちゅうぼくちゃや)」という、もう一つの歴史ある茶屋が営業しています。この二つの茶屋は、単に向かい合って存在するだけでなく、その成り立ちにおいて鏡写しのような深い物語性を共有しており、どちらも幕末の動乱期に生きた人々の忠義心を今に伝えています。
舌切茶屋が、勤王僧・月照上人の執事であった近藤正慎の壮絶な忠義に由来するのに対し、忠僕茶屋は、月照の弟である信海上人に仕えた僕(しもべ)、大槻重助の忠誠を称えたものです。主君であった兄弟僧それぞれに仕えた二人の忠臣の物語が、時を経て二軒の茶屋として石段の両脇に並んでいるのです。まさに、対をなす存在と言えるでしょう。
それぞれの茶屋が持つ物語と特徴を、以下の表で比較してみましょう。
| 項目 | 舌切茶屋 | 忠僕茶屋 |
|---|---|---|
| 場所 | 本堂へ続く階段の左手 | 本堂へ続く階段の右手 |
| 由来の人物 | 近藤正慎(月照の執事) | 大槻重助(信海の僕) |
| 物語 | 月照を守るため舌を噛み切り自害 | 信海を守り、その墓前で殉死 |
| 主なメニュー | わらび餅、甘酒、ところてん | 団子、甘酒、あめ湯 |
どちらの茶屋も甲乙つけがたい魅力がありますが、その背景にある物語の違いを知ることで、訪問の感慨はより一層深まります。悲壮な覚悟を持って主君を守り抜いた物語に心を寄せたいか、あるいは主君の後を追い最後まで仕え続けた物語に思いを馳せたいか。ご自身の心に響く物語で、どちらの縁台に腰を下ろすかを選んでみるのも、清水寺観光の醍醐味の一つです。
境内でおすすめの休憩処・茶屋は何軒?
清水寺の広大な境内において、参拝者が気軽に立ち寄り休憩できる茶屋としては、主に「舌切茶屋」と「忠僕茶屋」の2軒が挙げられます。これらが本堂近くで最も利用しやすく、多くの参拝客に親しまれている代表的な休憩処です。どちらも150年以上の歴史を持ち、単に飲食を提供するだけでなく、清水寺の歴史の一部を体感できる貴重な空間となっています。
これら2軒のほかに、清水寺の創建の由来ともなった音羽の滝のすぐ近くには、「滝の家」という食事処を兼ねた茶屋もあります。ここでは甘味だけでなく、名物の湯豆腐といった食事メニューも楽しむことができ、滝の清らかな水音を聞きながら、より落ち着いた雰囲気でしっかりと休息を取りたい場合に適しています。
どの場所もそれぞれに魅力がありますが、利用シーンに応じて選択するのが良いでしょう。
- 参拝の合間の短い休憩や甘味を楽しみたい場合
- 舌切茶屋・忠僕茶屋
- 音羽の滝周辺で食事も兼ねてゆっくりしたい場合
- 滝の家
特に、清水寺が持つ幕末の歴史に興味がある方にとっては、舌切茶屋と忠僕茶屋は単なる休憩場所にはとどまりません。かつて志士たちが往来したであろう場所に身を置き、歴史の息吹を感じながら一服する時間は、他のどのカフェでも味わうことのできない、特別な価値を見いだせる体験となるでしょう。
舌切茶屋の歴史と味わうべき名物メニュー
怖い名前の由来と西郷隆盛との関係
「舌切茶屋」という、一度耳にすれば深く心に刻まれるその名は、単なる奇抜さを狙ったものではなく、幕末という激動の時代に生きた人々の、悲しくも気高い忠義の物語にそのルーツを持っています。
幕末の悲劇が生んだ「舌切」の由来
時代は1858年(安政5年)、大老・井伊直弼による反対派への苛烈な弾圧「安政の大獄」が日本全土を震撼させていた頃に遡ります。当時、清水寺成就院の住職であった月照(げっしょう)上人は、公家の近衛家出身という高貴な生まれでありながら、尊王攘夷を唱える勤王僧として活動し、幕府から危険人物と見なされ追われる身でした。
月照上人を献身的に支えていた執事の近藤正慎は、主君を無事に薩摩藩の西郷隆盛のもとへと逃がした後、自らは幕府の追手に捕らえられてしまいます。京都の六角獄舎に投じられた正慎は、月照上人の潜伏先を白状させようとする、想像を絶する厳しい拷問を受けました。しかし、彼は決して口を開くことなく、ついには主君への忠義を貫くため、自らの舌を噛み切り命を絶ったのです。
この壮絶な死は、多くの人々の心を打ちました。その揺るぎない忠誠心に深く感銘を受けた清水寺は、残された正慎の妻子が生活に困らぬよう、境内で茶屋を営む特別な権利を与えました。これが「舌切茶屋」の始まりであり、その名は近藤正慎の命を賭した忠義の証として、150年以上の時を超えて今なお大切に受け継がれているのです。
西郷隆盛が国事を語らった場所
舌切茶屋の物語は、近藤正慎の逸話だけにとどまりません。幕末維新の最大の功労者である西郷隆盛とも、切っても切れない深い関わりがあります。月照上人と西郷隆盛は、思想的に深く共鳴し、日本の未来を憂い、変革のための密議を重ねる深い間柄でした。そして、二人が人目を忍んで会合を持った場所こそが、この清水寺の茶屋であったと伝えられています。
後に月照は西郷と共に薩摩へ逃れますが、藩の事情で保護を得られず、二人は錦江湾に入水するという悲劇的な結末を迎えます(西郷は奇跡的に蘇生)。茶屋の縁台に静かに腰を下ろせば、日本の夜明けを夢見て熱く語り合ったであろう二人の志士の息遣いや、その後の数奇な運命に思いを馳せることができる、歴史ファンにとっては何物にも代えがたい場所と言えるでしょう。
看板メニューの一覧をご紹介
舌切茶屋では、創業以来の伝統を受け継ぐ、素朴で心温まる甘味の数々が楽しめます。清水寺の長い参道を歩き、数々の建物を巡った後の疲れた体を優しく癒してくれる、代表的なメニューをご紹介します。
| メニュー名 | 価格(目安) | 特徴 |
| わらび餅 | 600円 | 口の中でとろけるような独特の食感が自慢の看板メニュー。上品な黒蜜と香ばしいきな粉でいただく逸品。 |
| 甘酒 | 500円 | 米麹のみで造られた、ノンアルコールの伝統的な甘酒。自然で優しい甘さが体に染みわたる。 |
| ところてん | 500円 | 清涼感あふれる夏の定番。甘味として楽しむ黒蜜か、さっぱりとした酢醤油かを選べるのが嬉しい。 |
| 茶だんご | 500円 | 宇治抹茶の豊かな風味が口いっぱいに広がる、京都ならではの味わい。 |
| かき氷(夏季限定) | 600円~ | 夏の強い日差しを忘れさせてくれる冷たい甘味。濃厚な宇治抹茶シロップなどが人気。 |
※価格やメニュー内容は変更される場合があります。最新の情報は現地でご確認ください。
どのメニューも、清水寺の荘厳な雰囲気と眼下に広がる京の町並みを眺めながらいただくことで、その味わいはより一層特別なものとなります。歴史が息づく空間で、心安らぐひとときをお過ごしください。
名物のわらび餅と人気の甘酒
舌切茶屋を訪れた際に、多くの人が注文するのが二大看板メニューである「わらび餅」と、昔ながらの製法で作られる「甘酒」です。どちらも、この場所だからこそ味わえる特別な魅力に満ちています。
名物のわらび餅は、まずその驚くほど柔らかな食感に心を奪われます。希少な本わらび粉を使い、丁寧に練り上げられたわらび餅は、口に含むとまるで溶けてしまうかのような、なめらかな舌触りが特徴です。しかし、ただ柔らかいだけでなく、ぷるんとした心地よい弾力も感じられます。この絶妙な食感に、風味豊かな国産大豆のきな粉がたっぷりと絡み、香ばしさを添えます。添えられた黒蜜は、見た目よりもさらりとしており、くどさのない上品な甘さで、わらび餅本来の繊細な風味を最大限に引き立てています。一つ一つ手作りされていることが伝わってくる、素朴ながらも完成された奥深い味わいです。
一方、根強い人気を誇る甘酒は、米と米麹のみを発酵させて作られる伝統的な製法を守っています。そのため、砂糖を一切使用していないにもかかわらず、お米本来の自然で優しい甘みがしっかりと感じられます。「飲む点滴」と称されることもあるほど栄養価が高いとされ、冬の寒い日には体を芯からじんわりと温め、夏の暑い日には疲労回復の助けとなってくれる、まさに万能の飲み物です。アルコール分を含まないため、お子様や車を運転される方でも安心して楽しめます。添えられた生姜を少し加えると、味がきりりと引き締まり、後味もすっきりとします。
歴史の舞台となった茶屋の縁台に腰かけ、眼下に広がる景色を眺めながらいただくわらび餅と甘酒は、単なる甘味以上の価値を持つ、清水寺観光の忘れられない思い出の一つとなることでしょう。
歴史を感じる舌切茶屋で特別な時間を
- 舌切茶屋は清水寺の本堂へ向かう最後の石段の左手にあります
- 幕末の志士、西郷隆盛と月照上人が密会した歴史的な場所です
- 店名の由来は月照上人を守った執事・近藤正慎の忠義にあります
- 近藤正慎は拷問に屈せず自らの舌を噛み切って命を絶ちました
- その忠義に報いるため遺族に茶屋を営む権利が与えられました
- 向かいには忠僕茶屋があり由来や物語を比較するのも一興です
- 看板メニューはとろけるような食感が特徴の名物わらび餅です
- 上品な甘さの黒蜜と香ばしいきな粉の相性が抜群と評判です
- 米麹から作られた自然な甘さの甘酒も根強い人気を誇ります
- 夏季には宇治抹茶などのかき氷で涼むこともできます
- ほかにも京都らしい茶だんごやさっぱりしたところてんも選べます
- 参拝で歩き疲れた体を癒すのに最適な休憩処として親しまれています
- 朱色の毛氈が敷かれた縁台が昔ながらの茶屋の風情を醸します
- ただ休憩するだけでなく幕末の歴史に思いを馳せることができます
- 清水寺観光の際はぜひ立ち寄り特別な時間を過ごしてください