MENU

祇園祭の函谷鉾とは?由来やちまき、鑑賞場所を完全ガイド

祇園祭の山鉾巡行でひときわ目を引く、豪華絢爛な函谷鉾。その正しい読み方や、鉾が表現する興味深い由来をご存じでしょうか。函谷鉾ならではのご利益や、実際に誰が乗っていますかといった素朴な疑問から、祇園祭の山鉾一覧におけるその位置づけまで、知れば知るほど祭りを深く楽しめます。また、現地での鑑賞に欠かせない巡行の場所や、授与されるちまきの値段、そして記念のグッズに関する情報も、事前に知っておきたい大切なポイントです。この記事では、函谷鉾の魅力を余すところなく解説し、あなたの祇園祭体験をより豊かなものにするための情報をお届けします。

この記事で分かること
  • 函谷鉾の正しい読み方や「鶏鳴狗盗」の由来といった基本情報
  • 厄除けのご利益や鉾を彩る豪華な懸装品などの見どころ
  • ちまきや限定グッズの値段と、それらを入手するための具体的な方法
  • 山鉾巡行を最大限に楽しむためのおすすめの鑑賞場所とルート
目次

函谷鉾の基本を知り祇園祭を楽しもう

読み方と鶏鳴狗盗の由来

祇園祭の山鉾の中でも、特に国際色豊かで劇的な物語を背景に持つ函谷鉾。その名前に込められた深い意味と、正しい知識を知ることは、祇園祭の鑑賞を一層味わい深いものにしてくれます。まずは、多くの方が疑問に思うその読み方と、鉾のテーマとなっている壮大な故事について紐解いていきましょう。

函谷鉾の正しい読み方

この歴史ある山鉾の正式な読み方は、「かんこほこ」または「かんこぼこ」です。構成する漢字「函」「谷」「鉾」はそれぞれ馴染み深いものですが、組み合わせられることで独特の響きを持ちます。時に「かんこくほこ」などと読まれることもありますが、これは由来となった関所の名前「函谷関(かんこくかん)」と混同されがちなためです。祭りの場で自信を持って語るためにも、ぜひ「かんこほこ」という正しい呼称を覚えておきましょう。

中国の故事に由来する壮大なテーマ

函谷鉾が表現しているのは、中国の古典『史記』に記され、日本でも古くから親しまれている「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」という故事です。これは、ただの物語ではなく、現代にも通じる教訓を含んだ人間ドラマと言えます。

物語の中心人物は、中国戦国時代の斉国(せいこく)で宰相を務めた孟嘗君(もうしょうくん)。彼は「戦国四君」の一人に数えられるほどの著名な人物で、身分を問わず多くの有能な人材(食客)を自邸に集めていたことで知られています。

物語は、孟嘗君が秦国に招かれた際に昭王の疑心を買い、命の危険に晒される場面から始まります。絶体絶命の窮地に陥った孟嘗君は、昭王の寵姫に助けを求めます。寵姫は、彼がかつて王に献上した高価な狐の毛皮「狐白裘(こはくきゅう)」を譲り受けることを条件としました。しかし、それは既に王の蔵の中。万策尽きたかと思われたその時、食客の一人で、犬のように身をかがめて盗みに入る特技を持つ者が、見事に蔵からそれを盗み出してきました。

寵姫の助けで城を脱出した一行でしたが、夜明け前に国境の関所「函谷関(かんこくかん)」に到着します。しかし、規則により一番鶏が鳴くまで門は決して開きません。背後には追手が迫る中、またしても食客の一人がその特技を発揮します。彼が鶏の鳴き声を巧みに真似ると、つられて本物の鶏たちが一斉に鳴き始めました。これを聞いた門番はすっかり夜が明けたと勘違いし、固く閉ざされていた門を開きます。こうして孟嘗君は、二人の食客の持つ「つまらない特技」によって、九死に一生を得たのです。

参考資料:国立国会図書館デジタルコレクション

この故事から、「鶏鳴狗盗」は「つまらない技能でも時には役に立つ」という意味の四字熟語として使われるようになりました。函谷鉾は、この危機一髪の脱出劇を鉾全体で表現しており、鉾の上には中心人物である孟嘗君の人形などが飾られています。

厄除けのご利益と誰が乗っていますか?

函谷鉾が多くの人々を惹きつけるのは、その壮麗な見た目だけではありません。故事に由来する強いご利益への信仰と、鉾を動かす人々の存在が、その神聖さを一層高めています。ここでは、函谷鉾が持つとされる spiritual な力と、巡行を支える搭乗者について詳しく見ていきましょう。

故事に由来する厄除けのご利益

函谷鉾がテーマとする「鶏鳴狗盗」は、絶体絶命の危機を知恵と特技で乗り越えた物語です。このことから、函谷鉾には古くから「厄除け」や、祇園祭の本来の目的である「疫病除け」の強いご利益があると信じられてきました。

このご利益を具体的に授かるためのお守りが、宵山期間中に授与される粽(ちまき)です。これは食用ではなく、一年間、家の玄関先や軒先に飾ることで、外部からの災厄が家内に入るのを防ぐ一種の結界の役割を果たすとされています。祇園祭の起源が、都に蔓延した疫病を鎮めるための御霊会(ごりょうえ)である点を踏まえると、この粽がいかに重要な意味を持つかが理解できます。

函谷鉾に搭乗する人々

壮麗な函谷鉾が動く際には、その上で重要な役割を担う人々が搭乗しています。主に、稚児人形と祇園囃子を奏でる囃子方(はやしかた)です。

函谷鉾には、他のいくつかの鉾とは異なり、生身の少年である「生稚児(いきちご)」は乗りません。その代わりに、「嘉多丸君(かたまるぎみ)」と名付けられた美しい稚児人形が、鉾の正面に座って神の使いとしての役割を果たします。これには悲しい伝承があり、かつて巡行に参加した久世家の実子・嘉多丸君が祭りの最中に病で亡くなってしまったため、それ以降、その御霊を慰めるために人形を乗せるようになったと伝えられています。

そして、鉾の中央部から上層にかけては、祇園囃子を演奏する囃子方の人々が約40名ほど乗り込みます。鉦(かね)、笛(ふえ)、太鼓(たいこ)という三種の楽器が織りなす独特のコンチキチンの音色は、夏の京都の風物詩です。この囃子の伝統は、各山鉾町で何世代にもわたって大切に受け継がれており、彼らの熟練した演奏が巡行に生命を吹き込み、祭りを最高潮に盛り上げます。

祇園祭の山鉾一覧で見る位置

京都の夏の空にそびえ立つ山鉾は、前祭・後祭を合わせて34基にものぼります。その壮大な行列の中で、函谷鉾がどのような位置づけにあるのかを知ることは、祇園祭の全体像を理解する上で非常に重要です。

くじ取らずで巡行する由緒ある鉾

毎年7月2日に行われる「くじ取り式」は、山鉾巡行の順番を神事によって決定する重要な儀式です。しかし、34基の山鉾のうち、いくつかの山鉾はくじ引きに参加せず、毎年定められた順番で巡行する特権を持っています。これらを敬意を込めて「くじ取らず」と呼びます。

函谷鉾もこの「くじ取らず」の一つであり、前祭(さきまつり)において、全体の5番目を巡行するのが古くからの慣例です。これは、各山鉾が持つ歴史的経緯や、祭礼における特定の役割に基づいています。常に先頭集団を進むため、観覧者にとっても見つけやすく、計画を立てやすいという利点があります。

前祭における主要な山鉾

7月17日に行われる前祭では、23基の山鉾が都大路を華やかに巡行します。函谷鉾の前後にどのような山鉾が続くのかを知っておくと、巡行をより一層楽しむことができます。特に先頭集団は、格式高い「くじ取らず」の山鉾が連なります。

スクロールできます
巡行順山鉾名特徴
1番長刀鉾(なぎなたほこ)常に巡行の先頭を進み、神域の結界を断ち切る役割を持つ。生稚児が乗る唯一の鉾。
2番孟宗山(もうそうやま)中国の孝行物語「二十四孝」をテーマにした舁山(かきやま)。
3番芦刈山(あしかりやま)夫婦の離別と再会を描いた謡曲をテーマにした舁山。
4番伯牙山(はくがやま)琴の名手と親友との友情物語をテーマにした舁山。
5番函谷鉾(かんこほこ)本記事で解説する「鶏鳴狗盗」をテーマにした、壮麗な曳鉾(ひきほこ)。

このように、函谷鉾は祇園祭という壮大な絵巻物の中で、明確な役割と格式を持った重要な存在です。他の山鉾の物語や特徴と見比べることで、それぞれの個性が際立ち、祭りの持つ文化的な奥行きの深さを感じることができるでしょう。

函谷鉾を現地で楽しむための実践ガイド

ちまきの値段や限定グッズの入手方法

祇園祭の宵山期間、函谷鉾の会所周辺は、鉾のご利益を授かろうとする人々の熱気に包まれます。ここでは、厄除けの粽(ちまき)や、この期間にしか手に入らない特別な記念グッズの入手方法について、具体的な情報と共にご案内します。

粽(ちまき)の種類と値段

まず最も大切な点として、函谷鉾で授与される粽は、食べるためのお団子ではなく、一年間家の玄関などに飾り、災厄が内に入るのを防ぐための「厄除けのお守り」です。この神聖なお守りを手に入れることを、通常「購入」ではなく「授与(じゅよ)」と表現します。

授与期間は例年、山鉾巡行に先立つ宵山期間の7月13日から16日までとなっています。函谷鉾の会所(京都市下京区四条通西洞院西入ル)にて、主に2種類の粽が用意されています。

スクロールできます
種類値段(目安)特徴
厄除け粽1,000円函谷鉾の厄除け・疫病除けのご利益を授かる、最も一般的なお守りです。
護符付き粽2,000円通常の厄除け粽の力に加え、特別な護符が一層の守護をもたらすとされています。

宵山期間、特に夕方から夜にかけて四条通が歩行者天国になると、会所周辺は大変な混雑に見舞われます。比較的落ち着いて粽の授与を受けたい方は、期間中の午前中から昼過ぎ、あるいは宵山初日の早い時間帯に訪れることをお勧めします。なお、値段は年によって変動する可能性があるため、あくまで目安としてお考えください。

参考資料:公益財団法人 函谷鉾保存会 公式ウェブサイト

手ぬぐいやお守りなどの記念グッズ

粽の他にも、函谷鉾では祇園祭の思い出となる様々な記念グッズが用意されており、これらを目当てに訪れる方も少なくありません。

  • 手ぬぐい
    • 毎年意匠を凝らしたデザインで製作されるため、コレクターズアイテムとしても高い人気を誇ります。函谷鉾の勇壮な姿や、由来となった「鶏鳴狗盗」の故事をモチーフにした絵柄など、その年ならではのデザインが魅力です。
  • お守り
    • 交通安全、学業成就、家内安全など、より具体的な願いを込めた小さなお守りも各種授与されています。ご自身や大切な方への贈り物としても最適です。
  • ミニチュアの置物
    • 函谷鉾の精巧なミニチュアは、祭りの壮麗な記憶を形として残すことができる特別な記念品です。ご自宅の神棚や飾り棚にお祀りする方もいらっしゃいます。

これらのグッズも粽と同様に、宵山期間中に函谷鉾の会所周辺で授与されます。特に人気のデザインや限定品は期間の早い段階でなくなることもありますので、確実に入手したい場合は、早めの時間帯に訪れるのが賢明です。

鑑賞場所と巡行ルートマップ

「動く美術館」とも称される函谷鉾。その壮麗な姿を心ゆくまで堪能するためには、静と動、二つの異なる鑑賞スタイルに合わせた場所選びが鍵となります。ここでは、宵山期間と山鉾巡行当日のそれぞれについて、最適な鑑賞場所とルートを具体的に解説します。

宵山期間中の鑑賞場所

山鉾巡行の本番(前祭:7月17日)に先立つ7月14日から16日の「宵山(よいやま)」期間中、函谷鉾は本来の所在地である京都市下京区の四条通西洞院西入ル「函谷鉾町」に堂々と建てられます。

この期間は、日中から鉾に搭乗しての祇園囃子の練習が公開され、夕暮れになると無数の駒形提灯に明かりが灯り、辺りは幻想的な雰囲気に包まれます。巡行中には遠くからしか見ることのできない、ベルギー製のタペストリーをはじめとする豪華絢爛な懸装品(けそうひん)の数々を、細部に至るまで間近でじっくりと鑑賞できるまたとない機会です。鉾の構造や精緻な装飾に関心のある方にとっては、巡行当日以上に充実した時間となるかもしれません。

山鉾巡行のおすすめ鑑賞ルート

7月17日の前祭巡行当日、函谷鉾は全体の5番目として、午前9時過ぎに四条烏丸の交差点から壮大な巡行を開始します。巡行の最大のハイライトは、巨大な鉾が交差点で方向転換する「辻回し(つじまわし)」です。

函谷鉾の車輪は固定式で舵を切る機能がないため、交差点では道路に濡らした青竹を敷き、その上で人力によって車輪を滑らせながら90度回転させます。10トンを超える巨体が「ギギギ…」という軋み音と共にゆっくりと向きを変える光景は、圧巻の一言です。

  • 四条河原町交差点
    • 最初の辻回しが行われる、最も人気が高く、最も混雑する鑑賞ポイントです。最高の場所でその迫力を体感したい場合は、数時間前から場所を確保する覚悟が必要となります。
  • 河原町御池交差点
    • 2回目の辻回しポイント。大通りである御池通は道幅が広いため、四条河原町よりは比較的視野が確保しやすいですが、それでも大変な賑わいを見せます。
  • 新町御池交差点
    • 巡行の終盤に行われる最後の辻回しポイントです。他の交差点に比べると混雑が緩和される傾向にあり、少し落ち着いて辻回しの技術を鑑賞したい方におすすめです。

また、少しでも快適に鑑賞したい場合は、京都市観光協会などが販売する「有料観覧席」を利用するのも賢い選択です。事前に予約と費用が必要ですが、椅子に座って、確保された視野の中でじっくりと巡行のハイライトを楽しめます。ご自身の体力や時間、そして「何を一番見たいか」を考慮しながら、最適な鑑賞プランを立ててみてください。

【まとめ】函谷鉾の魅力を現地で満喫しよう

この記事で解説した、祇園祭の函谷鉾に関する重要なポイントを以下にまとめます。

  • 函谷鉾の正式な読み方は「かんこほこ」である
  • そのテーマは中国の故事「鶏鳴狗盗」に由来している
  • 故事の内容から厄除けや疫病除けの強いご利益があるとされる
  • 巡行の際には生身の稚児ではなく「嘉多丸君」という稚児人形が乗る
  • 約40名の囃子方が搭乗し、巡行中に祇園囃子を演奏する
  • 山鉾巡行の順番を決めるくじ引きに参加しない「くじ取らず」の鉾である
  • 前祭の巡行では、全体の5番目という決まった順番を進む
  • 厄除けのお守りである粽(ちまき)は宵山期間中に授与される
  • 粽の値段は一般的なもので1,000円が目安となっている
  • 粽の他にも、毎年デザインの変わる手ぬぐいなどのグッズも人気がある
  • 宵山期間中は四条通西洞院西入ルの函谷鉾町で鑑賞できる
  • 7月17日の山鉾巡行では午前9時過ぎに四条烏丸を出発する
  • 巡行の見どころは交差点で行われる豪快な「辻回し」である
  • 四条河原町や河原町御池の交差点が人気の鑑賞スポットとなっている
  • この記事を参考に、函谷鉾の深い魅力をぜひ現地で体験してほしい

この記事を書いた人

目次