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清水寺の弁慶の錫杖、その由来と七不思議の謎

清水寺を訪れる多くの観光客が足を止める、巨大な金属の棒と下駄。それが弁慶の錫杖です。その圧倒的な存在感に、「これは一体何なのか?」「どれほどの重さがあるのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。

清水寺の有名な見どころの一つである弁慶の錫杖は、その重さや、持ち上げられるかどうかのチャレンジ、そして清水寺 七不思議との関連など、多くの関心を集めています。また、隣に置かれた鉄下駄の存在や、そもそもなぜ弁慶の名前がついているのかという由来、清水寺の境内での詳しい場所、触れることで得られるご利益の有無など、知りたい点は尽きません。

この記事で分かること
  • 弁慶の錫杖が清水寺のどこにあるのか
  • 大小の錫杖と鉄下駄の具体的な重さ
  • 弁慶伝説と、奉納された史実としての由来
  • 持ち上げチャレンジの難易度やご利益
目次

弁慶の錫杖の基本情報と伝説

清水寺での場所

弁慶の錫杖と鉄下駄は、清水寺の境内、その中心である「本堂(清水の舞台)」のまさに入口にあたる「轟門(とどろきもん)」をくぐってすぐの西側(左手)に安置されています。

具体的には、轟門を通過した先にある「出世大黒天像(しゅっせだいこくてんぞう)」のすぐ手前、参拝者が本堂(舞台)へと進む通路脇という、非常に目立つ場所です。

清水寺の拝観受付(入口)を通り、まず仁王門をくぐり、美しい朱色の西門(さいもん)や日本最大級の高さを誇る三重塔といった主要な建物を通り過ぎて、本堂(舞台)へ入る最後の関門が轟門です。ここは全ての参拝者が通過する主要な動線であり、自然とこの巨大な鉄の塊が目に入ることでしょう。

特に修学旅行生や海外からの観光客が、この錫杖や鉄下駄を囲み、代わるがわる持ち上げようと挑戦している姿がよく見られます。そのため、本堂入口付近でひときわ人だかりができている場所があれば、そこが目的地である可能性が高いです。もし万が一見落としてしまった場合でも、「出世大黒天さまはどこですか?」と尋ねてみれば、すぐに場所を教えてもらえるはずです。

圧巻の重さ!大錫杖と小錫杖

弁慶の錫杖は、実は一本だけではなく、大小二本が用意されています。そして、その規格外の重さこそが、最大の注目ポイントであり、伝説の源泉となっています。

スクロールできます
名称長さ(目安)重さ(目安)参考(身近なものとの比較)
大錫杖約2.6メートル約90kg〜96kg大柄な成人男性1人分、または米俵1.5俵分
小錫杖約1.7メートル約14kg〜17kg2リットルのペットボトル約7〜8本分
鉄下駄約12kg(一足)一般的なシティサイクル(自転車)1台分

※これらの数値は、清水寺の公式な案内や各種観光資料に基づいていますが、資料によって若干の幅(例:大錫杖を90kgとするもの、96kgとするもの)が見られます。これは、奉納当時の正確な記録が失われている可能性や、測定のタイミングや方法による誤差などが考えられます。

大錫杖の90kgを超える重さというのは、想像を絶するものです。これは単に「重い」というレベルではなく、トレーニングを専門的に積んだアスリートでもなければ、持ち上げること自体が困難な数値です。さらに、長さが2.6メートルもあるため、重心が非常に不安定であり、仮に持ち上げられたとしても、それを支え続けることは至難の業です。

小錫杖であっても、約14kgから17kgという重さがあります。これは、一般的なトレーニングジムで「上級者向け」として扱われるダンベルの片手分に匹敵します。多くの情報では、大錫杖は男性用、小錫杖は女性用と紹介されることがありますが、小錫杖であっても女性が片手で軽々と持ち上げるのは非常に困難な重さと言えます。

これらの具体的な数値を見るだけでも、これが常人の扱う道具ではなく、いかに超人的な「力の象徴」として奉納されたものであるかがわかります。

伝説と本当の由来

これほど巨大で重い錫杖と鉄下駄に、なぜ「弁慶」の名が冠されているのでしょうか。多くの参拝者が「武蔵坊弁慶が実際に使っていた武具ではないか」と一度は考えますが、その由来には広く知られる「伝説」と、研究によって明らかになっている「史実」の二つの側面が存在します。

弁慶が使ったという伝説

一つは、その名の通り、源義経に仕えたとされる怪力の豪傑・武蔵坊弁慶が、実際に武器として、あるいは修行の道具として愛用していた武具であるという伝説です。弁慶は、その超人的な怪力と数々の武勇伝で知られる、日本の歴史上最も有名なヒーローの一人です。清水寺は弁慶に関する伝説が残る場所(例:清水の舞台から飛び降りた、など)の一つでもあり、この常人離れした鉄塊が「弁慶のもの」として語り継がれてきたことには、人々のロマンや想像力をかき立てる自然な流れがありました。

史実としての由来(奉納品)

一方で、史実としての由来も伝わっています。これらの錫杖と鉄下駄は、弁慶が生きていた時代(平安時代末期)のものではなく、それから数百年以上が経過した、明治中期(19世紀後半)に奉納されたものであるという説が現在では最も有力です。

一説によれば、奈良県吉野(大峰山)で厳しい修行を積んだ修験者(山伏)が、その修行の満願成就(無事に修行を終えられたこと)のお礼として、清水寺に奉納したとされています。修験者たちが実際に修行で用いた法具(錫杖)や履物(高下駄)を模して、その力の象徴として、あるいは当時最高の技術を持った鍛冶職人がその技術の粋を誇示するため、並外れた信仰の証として、これほど巨大なものをあえて作り、奉納したと考えられています。

あまりの重さと常軌を逸した大きさから、いつしか「これは常人のものではない。これを使えた者がいるとすれば、それはあの怪力の弁慶に違いない」と、人々の間で伝説と結びつき、「弁慶の錫杖」「弁慶の鉄下駄」として広く知られるようになったのです。

セットで見たい巨大な鉄下駄

弁慶の錫杖のすぐそばには、錫杖と同じく重厚な鉄で鋳造された、一足の巨大な高下駄が置かれています。これも「弁慶の鉄下駄」と呼ばれ、錫杖と必ずセットで語られる、切っても切り離せない存在です。

この鉄下駄もまた非常に重く、一足(片方ではなく左右一組)で約12kgもの重さがあります。単純計算で片方だけでも約6kgあることになり、一般的な成人男性が履く安全靴(鉄板入り)の数倍の重さです。これを履いて山道を歩くことは、まず不可能と言ってよいでしょう。

錫杖と同様、これも弁慶が実際に履いていたという伝説がありますが、史実としては錫杖と同じく、明治時代に信仰の証や技術の誇示として奉納されたものと考えられています。

鉄下駄は、その形状から錫杖に比べると「持ち上げる」対象として挑戦されることは少ないかもしれません。しかし、その武骨で巨大な姿は、隣にある錫杖の迫力を一層引き立てています。修験道では山道を歩くために高下駄が用いられることもあり、この鉄下駄もまた、修行の厳しさや奉納者の篤い信仰心を象徴しているとも解釈できます。清水寺を訪れた際は、ぜひ錫杖だけでなく、この鉄下駄の重厚感にも注目してみてください。

清水寺 「七不思議の一つ」

弁慶の錫杖と鉄下駄は、清水寺の長い歴史の中で語り継がれてきた「清水寺の七不思議」の一つとして数えられています。

清水寺に限らず、古くからの寺社仏閣には、その由来やご利益、建築などにまつわる様々な伝説や不思議な伝承が残されていることが多く、それらを総称して「七不思議(ななふしぎ)」と呼ぶことがあります。

ただし、この「七不思議」は、厳密に七つと数が決まっているわけではなく、時代や資料によって数え方や内容が異なる(8つや9つあるとされることも)のが一般的です。人々の間で語り継がれるうちに、様々なバリエーションが生まれてきたものと考えられます。

その中でも「弁慶の錫杖と鉄下駄」は、その非現実的なまでの重さと大きさ、そして日本一とも言える怪力のヒーロー「弁慶」という伝説的な人物との結びつきから、清水寺の七不思議の中でも特に有名で、代表的な不思議の一つとして広く知られています。

清水寺の七不思議には、他にも「阿吽(あうん)」で対になっているはずの狛犬が、仁王門では両方とも口を開けた「阿形(あぎょう)」であることや、願い事をしながら首を回すと願いが叶うとされる「首ふり地蔵」、一度も水が枯れたことがないとされる「音羽の滝」なども含まれることがあります。弁慶の錫杖を訪れた際は、ぜひ他の不思議も探しながら境内を巡ってみると、より一層深い発見があるでしょう。

挑戦する前に知りたいご利益

弁慶の錫杖は、ガラスケースに収められた展示品ではなく、誰でも自由に触れることができ、多くの参拝者が「持ち上げられるか」と挑戦する体験型のスポットでもあります。そして、この困難な挑戦には、古くから「ご利益」があると信じられています。

最も一般的に言われているご利益は、「心願成就(しんがんじょうじゅ)」です。大錫杖(男性用とされる)や小錫杖(女性用とされる)を、もし片手で持ち上げることができれば、その困難を乗り越えた証として、願い事が叶うと言われています。この「困難を乗り越える」という行為そのものが、縁起の良いものとされてきたのでしょう。

また、錫杖の隣にある鉄下駄にも、ユニークなご利益の伝承があります。例えば、男性がこの鉄下駄に触れると「浮気をしなくなる」(重い下駄が足枷となって身動きが取れなくなる、という意味合い)といった話や、女性が触れると「履物(はきもの)に困らなくなる」、転じて「お金(足)に困らなくなる」といった、金運上昇につながるような言い伝えも存在します。

ただし、これらはあくまで古くからの言い伝えや縁起担ぎの一つです。特に大錫杖の重さは、無理に持ち上げようとすると腰を痛めたり、倒して怪我をしたりする危険も伴います。ご利益を期待するあまり無茶をするのではなく、弁慶の怪力にあやかるという意味で、旅の安全や健康を祈りながら、その重さを確かめる程度に、楽しみながら挑戦してみるのが良いでしょう。

弁慶の錫杖チャレンジと訪問の魅力

持ち上げられるか?

清水寺を訪れる多くの人にとって最大の関心事、それは「弁慶の錫杖は、果たして本当に持ち上げられるのか?」という点でしょう。連日、多くの参拝者がこの伝説の重さに挑み、その様子がSNSなどでも話題になるため、ご自身の力でどこまで通用するのか試してみたい、と思うのは当然のことかもしれません。

しかし、挑戦する前に、その「真の難易度」と「潜在的な危険性」について正確に理解しておくことが非常に大切です。

大錫杖(約90kg〜96kg)

まず、大きい方の大錫杖についてです。結論から申しますと、この大錫杖を一般の人が「持ち上げる」のは、現実的にほぼ不可能です。

90kgを超える重さというのは、単に「重い」という次元を超えています。例えば、一般的な30kgの米俵3つ分以上に相当し、これはトレーニングジムでデッドリフトを行う上級者が扱うような重量です。

さらに深刻なのは、これが「持ち上げるため」に設計されていない点です。

重量挙げのバーベルは、中央に重心があり、握る部分(グリップ)も計算されています。しかし、この大錫杖は長さ約2.6メートルもある長大な「鉄の棒」です。重心がどこにあるのか掴みにくく、少し傾けただけで、その重量がテコの原理で何倍にもなって手首や腰に襲いかかります。

多くの観光客が挑戦しますが、そのほとんどは錫杖を地面につけたまま少し傾けるか、あるいは数ミリ浮かせようと試みるだけで精一杯です。

軽い気持ちで無理に持ち上げようとすると、単なる筋肉痛では済まず、ぎっくり腰(急性腰痛症)や手首の捻挫を引き起こす可能性が非常に高いです。最悪の場合、バランスを崩して重い鉄の塊を足の上に落とし、骨折などの重大な事故につながる危険性も否定できません。また、万が一倒してしまえば、周囲の他の参拝者を巻き込む大惨事にもなりかねません。

挑戦するにしても、絶対に無茶な力を加えることはせず、「重さを確かめる」程度にとどめることを強く推奨します。

小錫杖(約14kg〜17kg)

一方、小さい方の小錫杖はどうでしょうか。重さは約14kgから17kgと、大錫杖に比べれば現実的な数値に感じられます。しかし、それでもなお、これを片手で持ち上げるのは容易ではありません。

この重さは、おおよそ3歳児の平均体重や、海外旅行用の大型スーツケースが荷物で満載になった状態に匹敵します。

そして、大錫杖と同様に、こちらも「持ちやすさ」は一切考慮されていません。

これはあくまで「法具」であり、握る部分が鉄製で滑りやすかったり、ごつごつしていたり、あるいは太すぎたり細すぎたりして、しっかりと握力を込めるのが難しい形状をしています。持ちやすいように最適化されたダンベルとは異なり、実際の数値(17kg)以上に、手首や前腕の握力を消耗させます。

力に自信のある男性なら片手で持ち上げられるかもしれませんが、その場合も、安定して持ち続けるのは難しいでしょう。多くの女性にとっては、両手を使ってようやく地面から数センチ浮かせられるかどうか、というのが実情です。

「持ち上げられたらご利益がある」という伝承は、この「ほとんど持ち上げられない(あるいは、小錫杖でさえ困難である)」という達成困難な目標に挑戦すること自体に意味があり、その結果としてのご利益(心願成就)がいかに貴重なものかを示唆しているとも考えられます。

清水寺を訪問した際は、ご自身のその日の体調や力の範囲を絶対に見誤らないよう、安全に十分注意しながら、この伝説の重さを「体感する」にとどめる勇気も持って、挑戦してみてください。

弁慶の錫杖の魅力を再確認(まとめ)

清水寺の弁慶の錫杖は、単なる古い展示品ではなく、多くの魅力と伝説が詰まった観光スポットです。最後に、この記事で解説したポイントをまとめます。

  • 弁慶の錫杖は清水寺の本堂入口、大黒天像の前にあります
  • 錫杖は大小二本あり、大錫杖は約90kgから96kgもの重さです
  • 小錫杖でも約14kgから17kgあり、持ち上げるのは困難です
  • 錫杖の隣には約12kgの巨大な鉄下駄も置かれています
  • 弁慶が使ったという伝説と、明治期に修験者が奉納した史実があります
  • あまりの重さから、いつしか弁慶の伝説と結びついたとされます
  • 清水寺の七不思議の一つとしても数えられ、観光名所となっています
  • 錫杖を持ち上げられると心願成就のご利益があると言われています
  • 鉄下駄にも浮気封じや金運に関するユニークなご利益の伝承があります
  • 大錫杖を一般の人が持ち上げるのは、安全面からもほぼ不可能です
  • 小錫杖も片手で持ち上げるのは難しく、重さを体感するに留めるのが賢明です
  • 挑戦する際は、無理をせず怪我や事故に十分注意してください
  • 伝説の背景や史実を知ることで、より深く観光を楽しむことができます
  • 多くの観光客が挑戦する様子は、清水寺ならではの光景です
  • 清水寺訪問の際は、ぜひこの伝説の重さに触れてみてください

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