伊勢神宮の外宮を訪れる際、多くの方が「多賀宮には必ずお参りを」と耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし、その正しい読み方から、祀られている神様は誰なのか、そして数あるお社の中で多賀宮がなぜ一番大切にされているのか、その理由まで詳しくご存じの方は少ないかもしれません。
また、外宮の参拝では順番が大切だとされますが、土宮や風宮との関係性や、実際にどこで御朱印やお守りを受けられるのかも気になるところです。一部でささやかれる「怖い」というイメージの真相や、実は伊勢神宮でも有数のパワースポットであること、そして期待できるご利益についても、事前にしっかりと理解しておきたいものです。
この記事では、そんな多賀宮に関するあらゆる疑問にお答えし、あなたの伊勢神宮参拝がより深く、意義のあるものになるためのお手伝いをします。
- 多賀宮が外宮で最も格式が高い理由
- 祀られている神様と期待できるご利益
- 土宮や風宮を含めた正しい参拝順序
- 御朱印やお守りの受け取り場所
多賀宮の基本知識 | 伊勢神宮での特別な存在
読み方と祀られる神様は誰か
伊勢神宮の広大な神域を歩む中で、ひときわ特別な存在感を放つ「多賀宮」。その正しい読み方は「たかのみや」です。伊勢神宮には、天照大御神をお祀りする内宮(ないくう)と、豊受大御神をお祀りする外宮(げくう)がありますが、多賀宮は外宮の境内にお祀りされているお社です。
外宮には、中心となる正宮(しょうぐう)の他に、特に神様とご縁の深い神々をお祀りする「別宮(べつぐう)」と呼ばれるお社がいくつかあります。多賀宮は、その別宮の中でも筆頭の格式を持つ、非常に重要な場所として位置づけられています。
この多賀宮にお祀りされているご祭神は、豊受大御神荒御魂(とようけのおおみかみのあらみたま)です。
豊受大御神は、外宮の正宮にお祀りされている神様であり、私たちの生活に欠かせない食事や、農業・漁業・商業といったあらゆる産業の発展を守護する神様として、古くから深く信仰されてきました。
神様の二つの側面「和御魂」と「荒御魂」
日本の神道における神様の捉え方として、一つの神様が異なる二つの御魂(みたま)、つまり霊的な働きを持つという考え方があります。一つは、穏やかで平和的な恵みをもたらす「和御魂(にぎみたま)」。そしてもう一つが、荒々しくも力強く、物事を新たに生み出したり、目標を達成したりする活動的な働きを持つ「荒御魂(あらみたま)」です。
これは、自然が持つ穏やかな側面(恵みの雨や穏やかな日差し)と、荒々しい側面(台風や雷)の両方を神様の働きとして捉えてきた、古来の日本人の自然観が反映されているとも考えられます。
外宮の正宮にお祀りされているのが、豊受大御神の穏やかな「和御魂」であるのに対し、この多賀宮には、同じ神様の活動的な側面である「荒御魂」がお祀りされています。荒御魂は、神様がそのご神威を特に著しく顕現させる際の、非常にエネルギッシュな働きを象徴しています。つまり多賀宮は、豊受大御神の持つ強大な創造と発展のエネルギーに満ちあふれた、特別な場所なのです。
なぜ一番?伊勢神宮での由緒と格式
数あるお社の中で、多賀宮が外宮で最も格式が高いとされるのには、明確な理由があります。それは、ご祭神が外宮の主祭神である豊受大御神ご自身の「荒御魂」である、という点に尽きます。主祭神と直接的に結びつく、最も活動的な御魂をお祀りしているからこそ、他の別宮とは一線を画す第一位の存在とされているのです。
伊勢神宮の公式サイトにも記載されている通り、外宮には格式の高い順に4つの別宮がありますが、多賀宮はその中でも筆頭と定められています。
| 別宮名 | 読み方 | ご祭神 | 格式 |
| 多賀宮 | たかのみや | 豊受大御神荒御魂 | 第一位 |
| 土宮 | つちのみや | 大土乃御祖神 | 第二位 |
| 月夜見宮 | つきよみのみや | 月夜見尊・月夜見尊荒御魂 | 第三位 |
| 風宮 | かぜのみや | 級長津彦命・級長戸辺命 | 第四位 |
参考資料:伊勢神宮『別宮|豊受大神宮(外宮)』
この序列からも分かる通り、多賀宮の重要性は明確で、古くから参拝の作法として「まず正宮に感謝を伝え、次に多賀宮で個人的な願い事を申し上げる」と伝えられるほど、外宮信仰の中心的な役割を担ってきました。
また、多賀宮の特別性はその立地にも表れています。正宮から少し離れた場所にあり、96段の長く急な石段を登りきった丘の上に静かに鎮座しています。この物理的な高さは、神聖な場所へと向かう参拝者の気持ちを自然と引き締め、俗世から神域へと意識を切り替えるための参道としての役割も果たしています。
さらに、20年に一度行われる伊勢神宮最大の神事「式年遷宮」において、多賀宮は正宮と同様に社殿が全く新しく建て替えられます。これは、神様の御神威を常に若々しく、力強い状態に保つための最も重要な儀式であり、この対象となっていること自体が、多賀宮がいかに特別な存在であるかを物語っています。
怖いと言われる理由とパワースポットの秘密
多賀宮について事前に調べると、時折「怖い」といった感想を目にすることがあり、不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これはご祭神である「荒御魂」の「荒」という文字が持つ、荒々しい、乱暴といった一般的なイメージからくる誤解であり、決して恐れるような場所ではありません。
神道における「荒」は、物事が新たに「顕(あら)われる」ときの根源的なエネルギーを示す言葉です。例えば、大地から草木が芽吹く力強い生命力や、何かを成し遂げようとする際の爆発的な情熱も、「荒」の働きと捉えられます。つまり、多賀宮は恐ろしい場所ではなく、むしろ強力な生成・発展のエネルギーに満ちた場所なのです。
その力強さゆえに、多賀宮は伊勢神宮の中でも有数のパワースポットとして、多くの参拝者から篤い信仰を集めています。
特に、何か新しいことを始めようとしている方、困難な目標に挑戦している方、あるいは現状を打破して前に進みたいと強く願う方にとって、荒御魂の力強い後押しは大きな支えとなるでしょう。経営者や起業家、また大きな試験を控えた学生などが、強い決意を胸に参拝に訪れる姿も後を絶ちません。
長く続く石段を一段、また一段と自分の足で踏みしめて登る行為は、単なる移動ではありません。それは、自らの願いを叶えるための覚悟を神様にお示しするプロセスでもあります。日常の喧騒から離れ、息を切らしながら辿り着いた社殿の前で手を合わせるとき、心は研ぎ澄まされ、自分自身の内なる決意と向き合うことができるはずです。その力強くも清らかな神気は、訪れる人々の迷いを払い、進むべき道へと力強く導いてくれるものと言えるでしょう。
多賀宮の参拝ガイド | 巡る順番やご利益
参拝することで期待できるご利益
多賀宮へお参りするにあたり、多くの方が期待されるのが「ご利益」ではないでしょうか。そのご利益は、ご祭神である豊受大御神荒御魂(とようけのおおみかみのあらみたま)の神様としての性質、すなわち「神格」と深く結びついています。豊受大御神が私たちの生活の基盤である衣食住や、あらゆる産業をお守りくださる神様であることから、その活動的で力強い側面である荒御魂には、物事を停滞から前進へと力強く推し進める神徳があるとされています。
具体的には、以下のようなご利益が期待できると考えられています。
- 事業発展・商売繁盛
- 新しい事業の立ち上げ、新規プロジェクトの成功、あるいは商売や営業活動がより活発になるよう、その力強いエネルギーで後押ししてくださいます。経営者や個人事業主の方々が、事業の節目に参拝されることも少なくありません。
- 開運招福・心願成就
- 人生における停滞した状況を打破し、新たな運気を切り開いて福を招き入れるお力添えをいただけます。転職や目標達成、人間関係の改善など、現状をより良い方向へ動かしたいと強く願う際に、その願いが成就するよう導いてくださいます。
- 学業成就・合格祈願
- 難関とされる試験や資格取得に向けて努力する際に、それを乗り越えるための精神的な強さや集中力を授けてくださいます。単なる合格だけでなく、目標に至るまでの過程そのものを支えてくださる存在です。
これらのご利益は、ただ一方的にお願いする「神頼み」とは少し異なります。むしろ、自分自身が固い決意を持って行動を起こす際に、その背中を最も力強く押していただき、障害を取り払うお力添えをいただく、というイメージを持つことが大切です。多賀宮の神様は、覚悟を決めて挑戦する人々の、何よりも心強い味方となってくださる存在なのです。
土宮・風宮を含めた正しい参拝の順番
伊勢神宮、特に外宮の参拝では、古くから大切にされてきた習わしに沿った順番で巡ることが推奨されています。これは、定められた順路を歩むことで、神様への深い敬意を表し、その広大無辺なご神徳をより深く、心静かにいただくことができると考えられているためです。初めての方でも迷うことがないよう、一般的な参拝順序をご紹介します。
外宮の境内における一般的な参拝順序は以下の通りです。
- 手水舎で心身を清める
- 火除橋(ひよけばし)を渡り神域に入ると、まず正宮へ向かう参道の左手に手水舎(てみずしゃ)が見えます。ここでは、まず左手、次に右手を清め、左手に水を受けて口をすすぎ、最後に柄杓(ひしゃく)の柄を洗い流すという作法で心身を清めます。これは、神様の前に進むにあたり、日常の穢れを祓うための重要な儀式です。
- 豊受大神宮(正宮)に参拝
- 外宮の中心であり、最も重要なお社である正宮(しょうぐう)にて、豊受大御神にお参りします。ここでは個人的な願い事よりも先に、まず日々の暮らしへの感謝の気持ちをお伝えすることが古来からの習わしとされています。
- 多賀宮に参拝
- 正宮での感謝の参拝を終えたら、いよいよ別宮の中で最も格式の高い多賀宮へ向かいます。正宮の背後にある96段の石段を登った先に鎮座しており、ここで初めて個人的な、特に強い願い事をお伝えすると良いとされています。物事を力強く動かす荒御魂に、自らの決意を誓うように心静かにお参りしましょう。
- 土宮・風宮に参拝
- 多賀宮の参拝後、石段を下りて、次いで土宮(つちのみや)、そして風宮(かぜのみや)の順にお参りするのが一般的です。土宮には外宮一帯の土地を守る大土乃御祖神(おおつちのみおやのかみ)が、風宮には元寇の際に神風を吹かせたと伝わる級長津彦命(しなつひこのみこと)と級長戸辺命(しなとべのみこと)がお祀りされており、どちらも私たちの生活基盤を守る重要な神様です。
この順番で巡ることで、外宮にお祀りされている神様方に、失礼なく丁寧にご挨拶をすることができます。境内は広く、玉砂利が敷き詰められていますので、歩きやすい靴での参拝がおすすめです。参拝所要時間は、各お社で丁寧にお参りして、おおよそ40分から1時間ほどを見ておくと、心に余裕を持って巡ることができるでしょう。
御朱印やお守りを受けられる場所
多賀宮へお参りした証として、また日々の生活を見守っていただくため、御朱印やお守りをいただきたいと考える方は非常に多いことでしょう。ただし、多賀宮の社殿の近くには社務所や授与所は設けられていないため、その場で直接受けることはできませんのでご注意ください。
外宮の境内において、御朱印やお守り、お神札などを授与しているのは、すべて境内の中心部にある「神楽殿(かぐらでん)」という建物になります。
御朱印について
御朱印は、多賀宮単独のものではなく、「豊受大神宮」として外宮全体のものが授与されます。神楽殿の御朱印受付窓口で、お持ちの御朱印帳をお預けしてお受けください。御朱印は神様とのご縁を結んだ大切な証ですので、感謝の気持ちを込めていただきましょう。
お守りについて
お守りも同様に、神楽殿に併設されている「神札授与所(しんさつじゅよしょ)」にて、さまざまな種類を受けることができます。一般的な開運招福や健康長寿、交通安全のお守りのほか、伊勢神宮ならではの清らかな鈴の音がする「開運鈴守」なども人気があります。ご自身の願いや、贈る相手のことを想いながら、最適なお守りを選びましょう。
参拝の順路として、多賀宮や土宮、風宮などすべてのお参りを終えた後に、最後に神楽殿に立ち寄るように計画を立てておくと非常にスムーズです。多賀宮でお伝えした強い決意や願いを、お守りという形にして持ち帰り、日々の心の支えとするのも良いでしょう。
【まとめ】由緒を知り多賀宮を参拝しよう
- 多賀宮は「たかのみや」と読み、伊勢神宮外宮で最も格式の高い別宮です
- ご祭神は豊受大御神の活動的な側面である荒御魂(あらみたま)をお祀りします
- 神様の力強い側面をお祀りしていることが、外宮で一番とされる理由です
- 「怖い」という印象は誤解で、実際は強力なエネルギーに満ちたパワースポットです
- 新しい挑戦や困難を乗り越える際に、力強い後押しをしてくださる神様です
- 主なご利益には事業発展、商売繁盛、開運招福などが挙げられます
- 参拝は外宮の正宮にまずお参りしてから多賀宮へ向かうのが習わしです
- 正宮、多賀宮の後は、土宮、風宮の順番で巡るのが一般的とされています
- 96段の石段を登った先に鎮座しており、その場所自体が特別です
- 多賀宮単独の御朱印はなく、「豊受大神宮」のものが授与されます
- 御朱印やお守りは、外宮の境内にある神楽殿の授与所で受けることができます
- 多賀宮には社務所がないため、その場で直接お守り等を受けることはできません
- 参拝順序や由緒を理解することで、より心に残るお参りになります
- 外宮全体の参拝所要時間は、余裕を持って30分から1時間ほど見ておくと安心です
- 多賀宮の由緒を知ることは、伊勢神宮の奥深さを知る第一歩と言えるでしょう