日本神話の天照大御神の家系図と聞くと、なんだか複雑で難しそうだと感じていませんか。古事記の家系図を紐解こうとしても、神々の系図や相関図は多くの神名で溢れており、どこから理解すれば良いか戸惑うかもしれません。特に、最高神である天照大御神の家族構成、有名なスサノオとの関係や、そもそも夫は誰で子供は何人いたのか、そしてその子孫が後の天皇へとどう繋がっていくのかは、多くの方が抱く疑問点です。また、神々の物語の始まりである家系図の頂点は誰なのか、という根本的な問いもあります。この記事では、それらの疑問に対して、初心者の方でも直感的に理解できるよう、わかりやすく丁寧にお答えしていきます。
- 神々の関係性が一目でわかる家系図の全体像
- 天照大御神を中心とした主要な神々の役割と物語
- 神話の血脈が初代天皇へと繋がっていく壮大な流れ
- 複雑な日本神話をスッキリと理解するためのポイント
わかりやすい日本神話・天照大御神 家系図の全体像
- 古事記に基づく神々の系図・相関図
- 家系図の頂点は誰?天地開闢の神々
古事記に基づく神々の系図・相関図
日本神話の壮大な物語と、そこに登場する神々の複雑な関係性を理解する上で、道しるべとなるのが『古事記』と『日本書紀』という二つの古典籍です。これらは奈良時代、国家の威信をかけて編纂された歴史書であり、現代に伝わる神話の大部分がここに記されています。一般的に「記紀(きき)」と総称されるこれらの書物には、神々の誕生から国の成り立ち、そして初代天皇とされる神武天皇に至るまでの壮大な物語が記録されています。
特に『古事記』(712年成立)は、国内向けに日本の神々の物語をドラマティックに、そして一つの連続した物語として描き出すことに重きを置いています。そのため、登場する神々の感情や行動が生き生きと表現されており、文学作品としての魅力に溢れています。この記事で解説する家系図や相関図も、主にこの『古事記』の物語性の高い記述を基に構成されています。
参考資料:国立国会図書館サーチ『古事記 上巻』
一方、『日本書紀』(720年成立)は、当時の国際社会(特に中国大陸の諸王朝)を意識し、漢文で書かれた日本初の「正史」です。歴史書としての体裁を重んじ、ある出来事について複数の異なる伝承(「一書に曰く」という形で紹介される)を併記している箇所も多く、より客観的で多角的な視点を提供しています。そのため、一部で神様の名前や物語の細かな展開が『古事記』と異なる場合があります。
しかし、どちらの書物においても、太陽神・天照大御神(あまてらすおおみかみ)を皇室の祖先神(皇祖神)として最高位に位置づけ、その神聖な血脈が歴代の天皇へと繋がっていくという中心的な骨格は揺るぎません。
神々の系図を学ぶことは、退屈な暗記作業とは全く異なります。それぞれの神がどのような役割や神格を持ち、他の神とどう関わり合い、時には愛し、時には争いながら壮大な物語を紡いでいったのかを理解するための、いわば「神話の世界の地図」を手に入れることに他なりません。この地図があれば、全国各地の神社に祀られている神様の背景や、有名な神話のエピソードが持つ本当の意味を、より深く立体的に味わうことができるようになるのです。
家系図の頂点は誰?天地開闢の神々
日本の神々の家系図をどこまでも遡っていくと、その壮大な物語の起点、すなわち「頂点」にはどのような神様がいるのでしょうか。物語は、まだ天と地が混ざり合い、混沌としていた状態から、初めて二つに分かれた「天地開闢(てんちかいびゃく)」の場面から厳かに始まります。
『古事記』によれば、最初に高天原(たかまがはら)という天上の世界に出現したのは、「造化三神(ぞうかのさんしん)」と呼ばれる三柱の特別な神々でした。
- 天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)
- 宇宙の中心を司る神
- 高御産巣日神(タカミムスヒノカミ)
- 万物を生成する力の神
- 神産巣日神(カミムスヒノカミ)
- 万物を生成する力の神
これらの神々は、特定の性別を持たず、具体的な姿を現すことなくすぐに身を隠してしまった「独神(ひとりがみ)」とされています。彼らは宇宙の根源的な力を象徴する存在であり、直接的に子孫を残すわけではありませんが、後の神話の重要な局面でタカミムスヒノカミやカミムスヒノカミはその神聖な力をもって介入します。
その後、さらに二柱の独神が生まれ、これら造化三神と合わせた五柱の神々を、特別な天の神として「別天神(ことあまつかみ)」と総称します。
続いて、神々の世界に「神世七代(かみのよななよ)」と呼ばれる七代の神々が登場します。初期の神々は独神ですが、次第に男女一対の神として現れるようになります。この最後の七代目として登場したのが、男神イザナギノミコトと女神イザナミノミコトです。
この二柱の神こそが、天の神々から「この漂える国を修理り固め成せ」との命令を受け、日本の国土や自然界の森羅万象を司る多くの神々を生み出す「国生み」と「神生み」を成し遂げました。そのため、天照大御神をはじめとする、物語の中心となる神々の家系図における実質的な始祖と言える、極めて重要な存在なのです。
日本神話の核心:天照大御神 家系図の主要な神々
天照大御神の家族構成とスサノオ関係
天照大御神を中心とした家族や兄弟との関係性は、日本神話の物語をダイナミックに動かす上で、まさに心臓部とも言える非常に重要な要素です。神々の間に巻き起こる喜びや嫉妬、対立といったドラマが、壮大な物語の数々を生み出しました。ここでは、天照大御神の誕生から、神話のトリックスターとも言える弟スサノオとの関係、そして彼女の子供たちの存在について、物語の背景を交えながら詳しく見ていきましょう。
三貴神の誕生
物語は、男神イザナギノミコトが、亡くなった最愛の妻イザナミノミコトを追って黄泉の国(よみのくに)へと向かう悲しい場面から展開します。しかし、変わり果てた妻の姿を見てしまったイザナギは、恐怖から地上へと逃げ帰ります。そして、黄泉の国の穢れ(けがれ)を洗い清めるために行った禊(みそぎ)の儀式の中で、奇跡が起こります。
イザナギが顔を洗うと、その各部位から特別な三柱の神々が次々とお生まれになりました。この神々は、他の神々とは一線を画す極めて尊い存在として「三貴神(さんきしん、みはしらのうずみこ)」と呼ばれ、日本神話の中心的役割を担うことになります。
貴神の名 | 誕生の経緯 | 司る領域 |
天照大御神 (アマテラスオオミカミ) | 左目を洗った時 | 高天原(天上世界) |
月読命 (ツクヨミノミコト) | 右目を洗った-時 | 夜の食国(夜の世界) |
建速須佐之男命 (タケハヤスサノオノミコト) | 鼻を洗った時 | 海原(海洋世界) |
長女である天照大御神は太陽を神格化した慈愛に満ちた女神、次男の月読命は月を神格化した神(ただし『古事記』ではその後の活躍はあまり描かれず謎多き存在です)、そして三男の須佐之男命は荒々しく力強い海の神です。父であるイザナギは、この三柱の子の誕生を大いに喜び、それぞれが治めるべき世界を託しました。
スサノオとの関係と誓約(うけい)
三貴神の中でも、特に天照大御神と弟の須佐之男命の激しい関係は、神話における数々の大事件の引き金となります。父の言いつけに背き、亡き母のいる根の国へ行きたいと泣き叫び続けたスサノオは、その乱暴な性格を咎められ、高天原から追放されることになりました。その別れの挨拶として天照大御神のもとを訪れますが、武装したスサノオのただならぬ様子に、姉は「弟は高天原を奪いに来たに違いない」と強く警戒します。
そこでスサノオは、自らの潔白を証明するために「誓約(うけい)」という、神意を問う古代の占いを行うことを提案します。これは、互いの持ち物を交換して噛み砕き、そこから生まれる子の性別や様子によって、どちらの心が清いかを判断するというものでした。
- 天照大御神の玉から
- スサノオが姉の玉を噛み砕くと、五柱の男神が生まれました。
- スサノオの剣から
- 天照大御神が弟の剣を噛み砕くと、三柱の女神(宗像三女神として知られる)が生まれました。
スサノオは、「私の心は清いから、か弱く優しい女神が生まれたのだ」と主張して勝利を宣言し、高天原に留まることを許されます。しかし、この勝利に増長したスサノオの乱暴狼藉はエスカレートし、ついには天照大御神が天岩戸(あまのいわと)に隠れてしまうという、世界が闇に包まれる未曾有の危機を招いてしまうのです。
夫と子供の存在
「天照大御神に夫はいたのか」という疑問は多くの人が抱きますが、『古事記』や『日本書紀』の本文には、彼女が特定の神と結婚したという記述は見当たりません。では、彼女の子供たちはどうなるのでしょうか。神話は、ここに人間世界の常識を超えた答えを用意しています。
前述の誓約(うけい)において、天照大御神の持ち物(八尺瓊勾玉)から生まれた五柱の男神こそが、正統な彼女の御子神(みこがみ)とされているのです。中でも長男とされるのが、天之忍穂耳命(アメノオシホミミノミコト)です。この神が、後の天孫降臨、そして皇室の系譜へと繋がる極めて重要な役割を担うことになります。このように、神話の世界では、必ずしも男女の交わりによらずとも神聖な血脈が継承されることがあり、その関係性は人間世界の常識だけでは測れない、深遠な神秘性を持っているのです。
神々の血脈はやがて子孫、そして天皇へ
天照大御神の家系図が、他の神話体系と比較しても日本において特別な重要性を持つのはなぜでしょうか。その最大の理由は、その神聖な血脈が、地上の支配者であり国民統合の象徴である初代天皇、神武天皇へと直接繋がっていると記されている点にあります。
天孫降臨
高天原の秩序が確立された後、天照大御神は地上世界である葦原中国(あしはらのなかつくに)を、自らの子孫が平和に治めるべきだと考えました。そこで、長男のアメノオシホミミノミコトにその大役を命じます。しかし、彼は地上へ降る準備をしている間に息子の瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が生まれたため、「私よりもこの子が降臨するべきでしょう」と進言します。
この進言を受け入れた天照大御神は、孫であるニニギノミコトに、皇位の証である三種の神器(八咫鏡・八尺瓊勾玉・草薙剣)を授け、「この鏡を私の御魂(みたま)として祀りなさい」と告げて、地上へと遣わしました。この神話におけるハイライトとも言える出来事を「天孫降臨(てんそんこうりん)」と呼び、天上の神々による地上の統治が正統なものであることを示す、極めて重要な転換点となります。
神武天皇への系譜
九州・日向(ひむか)の高千穂の峰に降り立ったニニギノミコトは、山の神の娘である美しき女神、木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)と結婚し、その子孫たちが地上を治めていくことになります。その血脈は、以下のようにつながっていきます。
- 瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)
- 天孫
- 火遠理命(ホオリノミコト)
- ニニギノ子。いわゆる「山幸彦」
- 鵜葺草葺不合命(ウガヤフキアエズノミコト)
- ホオリの子
- 神倭伊波礼琵古命(カムヤマトイワレビコノミコト)
- ウガヤフキアエズの子
このニニギノミコトの曾孫にあたるカムヤマトイワレビコノミコトこそが、後に日向から東へと進軍し、大和(やまと)の橿原宮(かしはらのみや)で初代天皇として即位した神武天皇です。ここから、現代まで続く万世一系の天皇の歴史が始まったと『古事記』や『日本書紀』は伝えています。
参考資料:宮内庁『天皇系図』
このように、天照大御神の家系は、単なる空想上の神々の物語に留まりません。それは日本の国の成り立ちと、皇室の神聖な起源を説明する根源的な系譜として、古代から現代に至るまで大切に語り継がれているのです。
総まとめ:日本神話の天照大御神 家系図を理解する
この記事で解説してきた、日本神話における天照大御神の家系図に関する重要なポイントを以下にまとめます。
- 日本神話の家系図は主に古事記と日本書紀が典拠となる
- 家系図の実質的な始祖はイザナギとイザナミの二柱である
- 天照大御神は父イザナギの左目から生まれた太陽の女神
- 弟に月の神ツクヨミと海の神スサノオがいる三貴神の長女
- スサノオとの誓約によって五柱の男神が天照大御神の子となる
- 特定の夫がいたという記述は記紀神話には見当たらない
- 長男のアメノオシホミミは天孫降臨に繋がる重要な神である
- 孫のニニギノミコトが三種の神器を携え地上へ降り立った
- この天孫降臨が地上の支配の始まりを示す神話上の大事件
- ニニギノミコトは日向の高千穂に降り立ったと伝えられる
- ニニギノミコトの曾孫が初代天皇とされる神武天皇である
- 天照大御神の血脈が皇室の起源に繋がることが最も重要
- 神々の系図は日本の国の成り立ちを物語る壮大な系譜である
- 家系図を理解すると神社巡りや物語の鑑賞がより深まる
- 神々の関係性を知ることは日本の文化のルーツを知ること