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出雲大社と神話ヤマタノオロチの繋がりと聖地巡礼ガイド

出雲大社への旅を計画する多くの方が、「有名なヤマタノオロチの神話と、どう関係があるのだろう?」という疑問を抱きます。この記事では、一見すると別々に見える出雲大社と神話ヤマタノオロチの間に存在する、深いつながりと関係について詳しく解説します。物語のあらすじはもちろん、英雄スサノオノミコトの活躍、そして謎に満ちたヤマタノオロチの正体まで、その核心に迫ります。特に、スサノオノミコトと出雲大社の関係は、神話の最も興味深い部分です。なぜ祖神であるはずのスサノオは祀られていないのか、という疑問にもお答えします。さらに、物語の舞台となったゆかりの地を巡るために、どの神社がヤマタノオロチを祀っている神社なのか、聖地である八重垣神社とヤマタノオロチの逸話、そして旅の計画に役立つゆかりの地マップの情報まで網羅的にご紹介します。古事記の現代語訳にも触れながら、この壮大な物語の全貌を解き明かしていきましょう。

この記事で分かること
  • スサノオと出雲大社の御祭神との明確な繋がり
  • ヤマタノオロチ神話のあらすじとその深い解釈
  • なぜ祖神スサノオが出雲大社に祀られていないのか
  • 神話の世界を体感できる聖地と巡り方
目次

解説!出雲大社と神話ヤマタノオロチの深い関係

英雄スサノオノミコトの神話あらすじ【古事記 現代語訳】

出雲大社とヤマタノオロチ神話の繋がりを理解する上で、まず欠かせないのが、物語の主役である英雄「スサノオノミコト」の活躍を知ることです。この壮大な物語は、日本に現存する最古の歴史書であり、712年に編纂された『古事記』に記されています。古事記は、神々の時代から古代天皇の御代までを綴った、日本の神話と歴史の根幹をなす書物です。

参考資料:国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)

物語は、スサノオノミコトが神々の住まう天上世界「高天原(たかまがはら)」から追放される場面から始まります。彼は太陽を司る偉大な姉神・天照大御神(あまてらすおおみかみ)の弟ですが、その性格は非常に荒々しく、高天原で数々の乱暴を働いたことで姉を深く悲しませ、地上へと追放されてしまうのです。

地上に降り立ったスサノオノミコトが、出雲国の斐伊川(ひいかわ)の上流を歩いていると、箸が一本流れてきました。川上に人がいることを察して進んでいくと、一人の美しい娘を間に、嘆き悲しむ老夫婦の姿がありました。

彼らに事情を尋ねると、この国には八つの谷と八つの丘にまたがるほど巨大な、八つの頭と八つの尾を持つ怪物「ヤマタノオロチ」が住んでおり、毎年やってきては娘を一人ずつ食らってしまうと語ります。老夫婦にはもともと八人の娘がいましたが、今や最後の末娘「クシナダヒメ(奇稲田姫)」を残すのみとなり、悲嘆に暮れていたのです。

クシナダヒメの美しさに心惹かれたスサノオノミコトは、彼女を自らの妻として娶ることを条件に、ヤマタノオロチの退治を約束します。彼はまず、クシナダヒメの身を櫛に変えて自らの髪に挿し、その身を隠しました。そして老夫婦に、何度も醸造して造った極めて強い酒「八塩折之酒(やしおりのさけ)」を用意させ、八つの門をしつらえた垣根の内側に、酒を満たした八つの樽を置かせました。

準備万端で待ち構えていると、地を揺るがすようにヤマタノオロチが現れます。その目は赤く輝き、体からは苔や木が生えていたとされます。ヤマタノオロチは酒の匂いに誘われ、八つの頭をそれぞれの樽に突っ込んで酒を飲み干し、やがて酔いつぶれて眠ってしまいました。

この好機を逃さず、スサノオノミコトは携えていた「十拳剣(とつかのつるぎ)」を抜き放ち、巨大なヤマタノオロチをずたずたに切り刻みました。川が血で赤く染まるほどの激闘の末、見事に怪物を退治したのです。

そして、その八番目の尾を切り裂いた時、剣の刃が欠けました。不思議に思って尾の中を探ると、中から一本の鋭く立派な剣が出てきました。これが、後に皇室の三種の神器の一つとして、日本の歴史に深く関わることになる「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」、後の草薙剣(くさなぎのつるぎ)です。

こうしてクシナダヒメを救ったスサノオノミコトは、彼女と晴れて結ばれ、出雲の須賀(すが)の地に安住の宮殿を構えました。この物語は、単なる怪物退治の英雄譚に留まらず、荒ぶる神であったスサノオノミコトが、愛する者を守ることで秩序をもたらす国造りの神へと変貌を遂げる、重要なエピソードとして語り継がれています。現代語訳で物語を読むことで、神々の感情の機微や、古代の人々が抱いた自然への畏怖をより身近に感じ取ることができるでしょう。

その正体は斐伊川?有力説を解説

神話に登場するヤマタノオロチは、単なる空想上の怪物ではなく、古代出雲の人々の暮らしに深く関わる「何か」を象徴していると考えられています。その正体をめぐっては様々な説が提唱されていますが、ここでは特に有力視されている二つの説を掘り下げて解説します。これらの説を知ることで、神話が単なる物語ではなく、古代社会の記録としての側面を持つことが見えてきます。

斐伊川の氾濫を象徴するという説

最も広く知られ、多くの研究者に支持されているのが、ヤマタノオロチの正体は出雲国を流れる「斐伊川」そのものである、という説です。中国山地に源を発する斐伊川は、急峻な地形を流れるため、古来よりたびたび大規模な洪水を引き起こし、流域に暮らす人々の田畑や家々を飲み込み、その生活を根底から脅かしてきました。

この荒れ狂う川の姿が、八つの支流を持つ大蛇になぞらえられたと考えられます。毎年、梅雨や台風の時期に決まって起こる洪水が「年に一度娘をさらう」という描写に、そして氾濫によって最も価値のある財産であった田畑(稲田)が壊滅的な被害を受ける様子が、稲田の女神である「クシナダヒメ(奇稲田姫)」が犠牲になるという物語に繋がったという解釈です。この見方に立てば、スサノオノミコトによる大蛇退治は、単なる武勇伝ではなく、高度な土木技術を用いた治水事業や堤防の整備が、英雄的な神の功績として神話になった可能性が考えられます。

古代の製鉄民を象徴するという説

もう一つの非常に興味深い説が、ヤマタノオロチは「たたら製鉄」の技術を持つ強力な一族を象徴しているというものです。斐伊川の上流域は古くから良質な砂鉄の一大産地であり、古代より「たたら製鉄」と呼ばれる日本古来の製鉄法を用いた文化が栄えていました。

この説では、ヤマタノオロチの描写が製鉄文化と見事に符合します。例えば、山を切り崩して水で土砂を流し、比重の重い砂鉄を分離する「鉄穴流し(かんなながし)」によって、川の水が赤茶色に濁る様子が、大蛇の「血のように赤い目」や「赤くただれた腹」として表現された可能性があります。また、たたら製鉄には燃料として膨大な量の木炭が必要であり、そのための森林伐採が山の保水能力を失わせ、結果として土砂災害や洪水を誘発したことも、斐伊川の氾濫説と密接に結びつきます。

この説を最も象徴するのが、スサノオノミコトが退治した大蛇の尾から、優れた鉄の剣(天叢雲剣)が出てきたという結末です。これは、スサノオノミコトが先進的な製鉄技術を持つ一族を平定し、その優れた技術(剣)を手に入れた、という社会的な出来事を物語っていると解釈できるのです。

これらの説は、神話が単なるおとぎ話ではなく、古代の人々の自然との闘いや、異なる文化を持つ氏族間の対立と統合といった、極めて現実的な社会の営みを反映した物語であることを力強く示しています。

スサノオノミコトと出雲大社の関係と祀られていない理由

ヤマタノオロチ神話と出雲大社を結びつける最も重要な鍵、それは英雄スサノオノミコトと、出雲大社の御祭神であるオオクニヌシノオオカミ(大国主大神)との間に存在する、明確な血縁関係にあります。この繋がりを理解することが、多くの人が抱く疑問を解き明かすことに繋がります。

スサノオはオオクニヌシの祖先

『古事記』の系譜によれば、出雲大社の御祭神であるオオクニヌシは、スサノオノミコトの六代後の子孫であると記されています。つまり、スサノオノミコトはオオクニヌシにとって直系の「祖先神」にあたるのです。ヤマタノオロチを退治して出雲の地に平和の礎を築いた英雄の血を引く神が、幾多の試練を乗り越え、後に葦原中国(あしはらのなかつくに、日本の国土を指す)の国造りを完成させ、縁結びの神として出雲大社に祀られるようになった。これが、日本の神話が描く壮大な物語の骨子です。この揺るぎない血縁関係こそが、出雲大社とヤマタノオロチ神話の直接的で本質的な繋がりと言えます。

なぜ祖神スサノオは祀られていないのか

ここで多くの参拝者が抱くもっともな疑問が、「なぜ偉大な祖先であるスサノオノミコトが、子孫であるオオクニヌシの中心的な神社、出雲大社に主祭神として祀られていないのか」ということです。これには、神道における神社の役割と、神様の持つ「神格(しんかく)」、つまり神としての性格が深く関係しています。

神社とは、特定の役割や御神徳(ごしんとく、神の恵みや力)を持つ神様を祀るための場所です。出雲大社は、国土を開拓し、産業を興し、人々の幸福や縁を結んだとされるオオクニヌシノオオカミの、慈愛に満ちた「国造り」の功績を称え、その御神徳にあやかるための中心的な神社です。

一方、スサノオノミコトの神格はより複雑です。ヤマタノオロチ退治のような英雄的な側面を持つと同時に、高天原で乱暴を働いた「荒魂(あらみたま)」としての、荒々しく破壊的な厄災の一面も併せ持っています。そのため、スサノオノミコトの信仰は、その荒ぶる力を鎮め、厄除けや疫病退散の神として祀られることが多く、例えば出雲市内にある須佐神社や、京都の八坂神社などで手厚く祀られています。

このように、祀られていないからといって関係性が薄いわけでは決してありません。それぞれの神様の持つ神格や御神徳に最もふさわしい場所で、それぞれの役割に応じて祀られている、と理解するのが神道における考え方として最も適切です。出雲大社と須佐神社などを併せて参拝することで、祖先から子孫へと受け継がれた出雲の神々の壮大な物語を、より深く感じ取ることができるでしょう。

聖地巡礼:出雲大社と神話ヤマタノオロチゆかりの地マップ

ゆかりの地として祀っている神社

ヤマタノオロチ神話の壮大な物語は、単に書物の中だけに存在するものではありません。その舞台となった出雲地方には、物語の登場人物や象徴的な出来事にまつわる神社が、まるで神話の息吹を今に伝えるかのように数多く点在しています。これらの聖地を巡ることは、神話の世界を肌で感じ、物語への理解を一層深めるための素晴らしい旅となります。出雲大社への参拝と併せて訪れることで、点と点だった知識が線として繋がるような、感動的な体験が得られるでしょう。ここでは、神話の各場面を象徴する代表的な神社を紹介します。

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神社名所在地(市町村)神話との関連と特徴
須佐神社出雲市スサノオノミコトの御霊を祀る日本唯一の神社。自らの名をこの地に付けたとされ、境内には樹齢1300年を超える大杉があり、神聖な空気が漂います。
須我神社雲南市スサノオがヤマタノオロチ退治後にクシナダヒメと新居を構え、「八雲立つ…」という日本初の和歌を詠んだ場所。和歌発祥の地としても知られます。
稲田神社仁多郡奥出雲町クシナダヒメ(奇稲田姫)の生誕地と伝わる古社。境内には姫が産湯を使ったとされる「産湯の池」や、胎盤を納めたとされる「胞衣塚」が残されています。
八口神社仁多郡奥出雲町スサノオノミコトがヤマタノオロチを待ち構えるために八つの門(垣根)を造った場所とされています。大蛇との決戦の舞台を彷彿とさせます。
斐伊神社雲南市ヤマタノオロチの首が落ちた場所、あるいは胴体を埋めた場所という伝説が残る神社。神話の凄惨な一面を今に伝えています。

これらの神社は、それぞれが神話の重要なワンシーンを現代に伝える貴重な場所です。それぞれの神社の由緒や背景を知り、神話のどの部分と結びついているのかを意識しながら参拝することで、旅は単なる観光から、時空を超えた物語を体験する深い学びへと昇華するでしょう。

特に重要な聖地!八重垣神社

数ある神話ゆかりの地の中でも、物語のクライマックスと新たな始まりを象徴する場所として、特に重要な役割を持つのが島根県松江市にある「八重垣神社」です。この神社は、スサノオノミコトとクシナダヒメの劇的な縁結びの物語と深く結びついており、現在でも全国的に知られる強力な縁結びのパワースポットとして、絶大な人気を誇ります。

神話によれば、スサノオノミコトはヤマタノオロチとの決戦に臨むにあたり、まず最愛のクシナダヒメの身の安全を確保する必要がありました。その際に、大杉を中心に幾重にも垣根を造って彼女を隠した場所が、現在の八重垣神社の境内、奥の院にある「佐久佐女の森(さくさめのもり)」だと伝えられています。この森は今もなお、神秘的で清浄な空気に満ちており、一歩足を踏み入れると神話の時代に誘われるかのような感覚を覚えます。

無事にヤマタノオロチを退治した後、スサノオノミコトはこの地でクシナダヒメと正式に結ばれ、新居を構えました。その喜びと安堵の中で詠まれたとされるのが、かの有名な「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」という歌です。これは記録に残る日本最古の和歌とされ、幾重にも雲が湧き上がる出雲の地で、愛する妻のために幾重にも垣根をめぐらせて宮殿を造る、という喜びと愛情に満ちた内容です。この歌にある「八重垣」が、神社の名前の由来となりました。

八重垣神社が縁結びの聖地とされるのは、単に神話の舞台というだけでなく、二柱の神様が幾多の困難を乗り越えて夫婦となった「始まりの場所」であるからです。その御神徳を象徴するのが、奥の院にある「鏡の池」で行う縁占いです。占い用紙に硬貨を乗せて池に浮かべ、その沈む速さや距離で良縁の時期や相手との距離を占うこの儀式は、多くの参拝者の心を惹きつけてやみません。

参考資料:しまね観光ナビ 八重垣神社

神話のロマンチックな逸話に思いを馳せながら参拝することで、その御神徳をより強く、そして深く感じることができるでしょう。

まとめ:出雲大社と神話ヤマタノオロチの知識を旅に活かす

  • 出雲大社とヤマタノオロチ神話はスサノオで繋がります
  • スサノオは出雲大社の御祭神オオクニヌシの祖先神です
  • この血縁関係が、両者の最も直接的で重要な繋がりです
  • 神話の英雄スサノオは高天原を追放され出雲に降ります
  • スサノオはクシナダヒメを救うため大蛇退治を決意します
  • 八つの樽の酒でヤマタノオロチを酔わせて退治しました
  • 大蛇の尾から三種の神器の一つである天叢雲剣を発見します
  • 物語の原典は日本最古の歴史書である古事記にあります
  • ヤマタノオロチの正体は斐伊川の氾濫という説が有力です
  • 古代の製鉄文化を象徴するという興味深い説もあります
  • 祖神スサノオが祀られていないのは神様の役割分担のため
  • スサノオは須佐神社などで厄除けの神として祀られます
  • 出雲地方には神話の舞台となったゆかりの地が多くあります
  • 八重垣神社は二人の神様が結ばれた縁結びの聖地です
  • これらの知識は出雲旅行を何倍も味わい深くしてくれます

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