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明治神宮 第一鳥居の建て替えを解説!木材と歴史の全貌

明治神宮を訪れる多くの人々を最初に出迎える、荘厳な第一鳥居。この鳥居が近年新しくなったことにお気付きでしょうか。今回の建て替えには、100年以上にわたる深い歴史と、人々の特別な想いが込められています。

この記事では、明治神宮の第一鳥居がなぜ交換されたのか、その歴史的背景から詳しく解説します。新しい鳥居の木材として何の木が選ばれ、どこから奉納されたのか、そして台湾から運ばれた初代の物語まで、その全貌に迫ります。

また、建て替え工事を担当した清水建設の技術や、日本一の大きさを誇る第二鳥居との比較、鳥居の真ん中は入れないと言われる理由まで、あなたが抱くであろう全ての疑問に答えます。新しい鳥居の木の種類がなぜ吉野杉なのか、その理由も明らかにしていきます。

この記事を通じて、次に明治神宮を訪れる際、第一鳥居をより深く、新たな視点で見上げられるようになるでしょう。

この記事で分かること
  • 第一鳥居が100年の時を経て建て替えられた背景と経緯
  • 新しい木材「吉野杉」と初代の木材「台湾檜」の物語
  • 日本一の大きさを誇る第二鳥居との具体的な違い
  • 鳥居にまつわる歴史や参拝時の豆知識
目次

明治神宮 第一鳥居、100年の時を経て再建

建て替え交換の経緯と清水建設の工事

明治神宮の象徴的な入口、原宿駅側に静かにそびえる第一鳥居は、2022年7月4日の竣工清祓(しゅんこうきよばらい)をもって、およそ一世紀の役目を次代へ引き継ぎ、新たな姿へと生まれ変わりました。この歴史的な建て替えは、単なる老朽化対策にとどまらず、明治神宮が鎮座百年という大きな節目を迎えたことを記念する、未来へ向けた一大事業として計画されたものです。

初代の鳥居は1920年の創建以来、関東大震災や戦禍を乗り越え、数え切れないほどの参拝者を迎え、そして見送ってきました。しかし、100年という長い歳月の中で風雨にさらされ続けた巨大な木材は、内部の見えにくい部分で静かに傷みが進行していました。特に、常に地面からの湿気にさらされる柱の根元部分は腐食が進み、専門家による詳細な調査の結果、将来的な安全性を万全に期すためには建て替え交換が不可欠であると判断されました。この決断には、日本の伝統的な木造建築技術を途絶えさせることなく、次の100年、さらにその先へと継承していくという、文化的な使命感も強く込められています。

この国家的にも意義深い工事の白羽の矢が立ったのは、日本を代表するスーパーゼネコンの一つ、清水建設です。1804年創業という長い歴史を持つ同社は、近代的な建築物だけでなく、神社仏閣の建立や修復といった伝統建築の分野でも国内屈指の実績とノウハウを誇ります。同社に所属する「宮大工」と呼ばれる専門技術者集団が、先人たちから受け継いできた緻密な木組みの技と、現代の最新工法を巧みに融合させ、この難易度の高い大事業を見事に成し遂げました。工事は神域の静寂と尊厳を最大限に尊重しながら、極めて慎重に進められ、多くの人々の祈りに見守られながら、荘厳な新鳥居の竣工を迎えました。

参考資料:清水建設公式サイト「明治神宮 南玉垣鳥居(第三鳥居)建替工事/トピックス」

新しい鳥居の木材と木の種類は?奈良の吉野杉

荘厳な佇まいを見せる新しい第一鳥居。このために選び抜かれた木材は、秋田杉、木曽檜と並び「日本三大人工美林」の一つとして世界的にその名を知られる「吉野杉」です。用いられたのは、奈良県吉野地方の奥深い森で、実に250年以上の歳月をかけてゆっくりと育て上げられた、直径1.2メートルにも及ぶ壮大な杉の大木でした。

数ある木材の中から、なぜ吉野杉がこの大役に選ばれたのでしょうか。その理由は、吉野林業が数百年にわたり培ってきた独特の育成方法に由来する、比類なき品質の高さにあります。

吉野杉の優れた特性

吉野林業では、「密植(みっしょく)」と呼ばれる手法で苗木を通常よりも密に植え、その後、成長に合わせて何度も「間伐(かんばつ)」を繰り返します。この手間を惜しまない育成方法により、木の成長が緩やかになり、結果として年輪の幅が非常に細かく均一になります。これが、見た目の美しさはもちろん、反りや狂いが少なく、極めて高い強度を持つという吉野杉の最大の特徴を生み出すのです。

また、まっすぐに天を目指して伸びる「通直性(つうちょくせい)」にも優れており、鳥居の柱のような長大な部材として理想的な性質を備えています。これらの物理的な特性に加え、凛とした美しい木目、上品な色合い、そして心に安らぎを与える清々しい香りは、多くの人々が祈りを捧げる神域の入口を飾るに、これ以上ないほどふさわしい品格を持っていると言えるでしょう。

新しい木材は奈良県からの奉納

これほどまでに貴重で価値のある吉野杉ですが、驚くべきことに、今回の建て替えにおいて明治神宮は木材を購入したわけではありません。この鳥居は、奈良県の人々の熱い想いが結集した「奉納」によって実現したのです。

この奉納活動の中心的な役割を担ったのが、地元の林業関係者や有志によって組織された「吉野材明治神宮御用材奉納協賛会」です。彼らは「日本を代表する神宮の新たな百年のシンボルに、我々が丹精込めて育てた日本一の吉野杉を捧げたい」という純粋な願いから立ち上がりました。この想いは瞬く間に地域全体に広がり、多くの人々や企業が協賛。そして、広大な吉野の森の中から、この大役にふさわしい、形、大きさ、気品、そのすべてを兼ね備えた一本の杉が、数多の候補の中から選び出されたのです。

木が伐採される際には、山の神と木の精霊に感謝を捧げる厳かな神事「伐採式」が執り行われました。この一連の出来事は、単なる資材の提供という経済活動とは全く次元の異なるものです。それは、日本の豊かな自然への深い感謝、神々への敬意、そして先人たちが築き上げてきた伝統文化を次世代へと繋いでいきたいという、奈良県の人々の祈りそのものなのです。新しい鳥居には、樹齢250年の木が持つ生命力に加え、多くの人々の清らかで温かい願いが、確かに宿っていると言えるでしょう。

明治神宮 第一鳥居の歴史と比較

初代の鳥居は台湾のどこから来た木材?

2022年にその百年にわたる役目を静かに終えた初代の第一鳥居。その壮大な部材が、遥か南の台湾から運ばれてきた事実をご存知でしょうか。これは単なる建材の調達話ではなく、明治神宮の創建がいかに壮大な国家事業であったか、そして日本と台湾の間に存在した深い繋がりを今に伝える、歴史的なエピソードです。

木材の産地となったのは、台湾の中央部に位置する、険しい山々が連なる阿里山(ありさん)です。創建当時、日本国内ではこれほど巨大な鳥居を一本の木から造るための材を見つけ出すことが極めて困難でした。そこで、台湾総督府の協力のもと、専門家による調査隊が台湾の奥地へと派遣されます。そして彼らが阿里山脈の標高3,300メートルを超える霧深い原生林で発見したのが、樹齢1,200年、あるいは1,500年を超えるとされる巨大な台湾檜(タイワンヒノキ)の群生でした。

台湾檜は、その高い油分含有率から驚異的な耐久性と防腐・防虫効果を誇り、建築材として最高峰の品質を持つことで知られています。しかし、この神木ともいえる巨木を日本へ運ぶ道のりは、想像を絶する困難を極めました。専用の森林鉄道を敷設し、何トンもある巨大な原木を険しい山中から麓まで運び出し、そこからさらに海を越えて東京まで輸送するには、当時の最新技術のすべてと、数え切れないほど多くの人々の情熱と労力が費やされたのです。この鳥居は、明治神宮の創建という一大事業の象徴であると同時に、海を越えた壮大なプロジェクトを成し遂げた、日本と台湾の絆の証でもありました。

参考資料:明治神宮公式サイト「全て|Q&A」

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比較項目初代 第一鳥居二代目 第一鳥居(現在)
建立年1920年(大正9年)2022年(令和4年)
木材の種類台湾檜(タイワンヒノキ)吉野杉(ヨシノスギ)
木材の産地台湾・阿里山奈良県・吉野
樹齢(推定)1,200年以上250年以上

第二鳥居との大きさの違いを比較

明治神宮の広大な参道を歩む中で、第一鳥居の先に現れるのが、さらに巨大な第二鳥居です。この二つの鳥居は、明治神宮の景観を構成する重要な要素でありながら、その大きさや歴史、そして材質にそれぞれ際立った特徴があります。

多くの参拝者を圧倒する第二鳥居は、木造の明神鳥居としては日本一の高さを誇ることで広く知られています。明神鳥居とは、上部の笠木(かさぎ)が優美な曲線を描いて反り上がっている、日本で最もポピュラーで格式高い鳥居の形式です。その荘厳なスケールは、まさに神域の中心へと向かう結界として、比類なき存在感を放っています。興味深いことに、この現在の第二鳥居も、1975年に再建されたもので、初代と同様に台湾の檜が使われています。

一方で、2022年に建て替えられた現在の第一鳥居も、国産の杉を用いた鳥居としては国内最大級の大きさを誇ります。その佇まいは、第二鳥居の圧倒的なスケールとはまた違う、国産材ならではの清らかで凛とした気品に満ちています。都会の喧騒から神域へと誘う第一鳥居の清々しさと、森の奥深くで静かにそびえる第二鳥居の荘厳さ。それぞれの鳥居が持つ異なる魅力と力強さを感じながら参道を進むことは、明治神宮ならではの奥深い体験と言えるでしょう。

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比較項目第一鳥居(二代目)第二鳥居
高さ約8.8メートル約12メートル
約12.5メートル約17.1メートル
柱の直径約80センチメートル約1.2メートル
木材杉(奈良県産)檜(台湾産)
特徴国産杉として最大級木造明神鳥居として日本一の高さ

鳥居の真ん中はなぜ入れないのか

神社を参拝する際、「鳥居の真ん中を歩いてはいけない」という作法を耳にしたことがあるかもしれません。これは決して厳格な禁止事項ではありませんが、その背景には、神道が大切にしてきた神様への敬意の表し方が深く関係しています。

鳥居のちょうど中央を貫く一本の線は、「正中(せいちゅう)」と呼ばれます。この「正中」は、その先に祀られている神様がお通りになる、最も神聖な道筋であると考えられています。そのため、私たち人間がその道の中央を塞ぐように歩くのは、神様の進路を妨げることになり、敬意に欠ける行為とされているのです。これは、伝統的な日本家屋で「敷居(しきい)」を踏んではいけないとされる作法にも通じる、聖なる領域との境界を意識する日本古来の考え方です。

したがって、参拝の際には、まず鳥居の前で軽く一礼(一揖:いちゆう)し、神様へのご挨拶をします。そして、中央の正中を少し避けて、左右どちらかの足からそっと境内へ足を踏み入れると、より丁寧で心のこもった参拝となります。これは、決して誰かに強制されるルールではなく、神様への感謝と敬う気持ちを自然な形で表現するための、古くから伝わる美しい心構えの一つです。このような慣習の意味を知ることで、神社でのひとときが、より一層心豊かで意義深いものになることでしょう。

【まとめ】歴史を未来へ繋ぐ明治神宮 第一鳥居

  • 明治神宮の第一鳥居は2022年7月に建て替えられました
  • 建て替えは明治神宮の鎮座百年記念事業の一環として実施
  • 長年の風雨による老朽化が建て替えの主な理由でした
  • 建て替え工事は神社建築に実績のある清水建設が担当しました
  • 新しい鳥居の木材には奈良県産の吉野杉が使われています
  • 木材は購入ではなく奈良県の有志からの奉納によるものです
  • 吉野杉は均一な年輪と通直性に優れた最高品質の木材です
  • 初代の鳥居は1920年の創建時から神域を守り続けました
  • 初代の木材は台湾の阿里山で発見された樹齢1200年の檜
  • 台湾からの木材輸送は当時の技術の粋を集めた大事業でした
  • 第二鳥居は木造の明神鳥居として日本一の高さを誇ります
  • 第一鳥居と第二鳥居は大きさと木の種類が異なっています
  • 鳥居の真ん中は正中と呼ばれ神様の通り道とされています
  • 参拝時は真ん中を避け少し左右に寄って歩くのが作法です
  • 新しい鳥居は日本の伝統技術と人々の祈りを未来へ繋ぎます

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